NHK

NHK受信料の契約義務の有無や憲法論議に関して、平成29年に最高裁判所の判決が出た。判決は契約締結の義務は受信設備設置者に存在するとともに、憲法違反ではないというものである。この判決を根拠にNHKでは受信料の取立てを強化した。

その結果平成30年度の受信料収入は前年度比3.0%増の7122億円となり、5年連続で過去最高を更新した。最高裁が平成29年にNHKとの契約を義務付ける現行受信料制度を「合憲」と判断して以降、受信契約の申し込みが順調に増え(恐れをなして嫌々払い始めた?)たためだ。NHKに取っては当に最高裁様様だ。

私は、今までNHK受信料について疑問を呈して来たが、この最高裁判決を改めて見てみると、やはりおかしいことだらけだということを実感している。

皆さんは最高裁判決文を見たことがあるだろうか。恐らくないと思うが、「NHK最高裁判決」で見ることができるので参考にしてほしい。A4サイズ27ページにも及ぶ膨大なものであり、なかなか要点をつかむのは難しい。しかし、判決文を精査せずにおかしいと言っても始まらないので、まずは、判決がどのようなものであったかを見て行きたい。

なお、以下で示す最高裁の判決理由については、できるだけ平易になるように、私の解釈上の文言としており、相当意訳している。引用文の形にはなっているが、判決文ではないことをお断りしておきたい。

訴訟の内容

NHK受信料を支払わない輩がいたのでNHKが告訴したというもの。なのでNHKは原告、支払わなかった者は被告である。以下、「NHK」、「原告」、「公共放送事業者」と表記は混在しているが、全てNHKのこととご理解いただきたい。

支払えと言われた被告の言い分は「放送法64条1項は,訓示規定であって,受信設備設置者に原告との受信契約の締結を強制する規定ではない。仮に同項が受信設備設置者に原告との受信契約の締結を強制する規定であるとすれば,受信設備設置者の契約の自由,知る権利,財産権等を侵害し,憲法13条,21条,29条等に違反する」というもの。

私も本当にそう思う。国民の誰もが素朴な疑問として、そう思うのではないか。これに対して、最高裁判所は以下のように言及している。

放送法64条1項は訓示規定であるか強制規定であるかについての最高裁判断

放送法第六十四条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

この法律を被告は単に「訓示している」に過ぎないとし、もしも契約を強制するとするならば憲法違反ではないかと質したわけである。

これに対して最高裁は

放送法64条1項は,受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり,原告からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には,原告がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め,その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。

と被告の主張を退けた。その理由として次のようなことを述べている。

憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で,国民の知る権利を実質的に充足するためにNHKを設立したが、特定の個人,団体又は国家機関等から財政面での支配や影響がNHKに及ぶことのないようにしなくてはならないことから、財源についての仕組を受信設備設置者から支払われる受信料によって賄うこととした。

この趣旨を考えると、原告の財政的基盤を確保するために法的に実効性のある手段として設けられたものと解されるのであり,放送法64条1項が法的強制力を持たない規定として定められたとみるのは困難である

要は、NHKには重大な使命があるなか、受信料しか収入の途がないのだから、その収入を担保するためには、放送法は訓示規定なんかではなく、法的強制力を持たなくてはならないものだというのだ。

次に憲法論議についてである。

放送法64条1項が強制規定であるならば憲法違反ではないかであるかについての最高裁判断

放送法64条1項は,同法に定められた原告の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして,憲法13条,21条,29条に違反するものではないというべきである。

とこちらも被告の主張を一蹴した。その理由として次のようなことを述べている。

NHKは、国民の知る権利を実質的に充足するために、他からの干渉がなく自立的に運営されなくてはならない。そのための仕組みとして受信設備設置者に受信料を負担させることとした、この仕組みは合理的なものである。時代の変化があってもこの合理性に変りはない。こうした仕組みを離れて勝手に受信することは、そちらの方が憲法上許されるものではない。

また、受信料の支払義務を受信契約により発生させることは、受信設備設置者の負担により支えられて存立することが期待される事業体であることから、問題ないし、その契約内容も適正な範囲なので問題なく憲法上許容される。

裁判官鬼丸かおる氏は補足意見で「契約締結の自由という私法の大原則の例外」と言い切っている。

要はNHKの存在意義から考えると受信料を徴収することは合理的であり、その仕組みを無視する輩の方が憲法に反している。契約締結の自由という私法の大原則はあるとしても、NHKの存在意義はその大原則を越えるものである、というわけだ。

まあ、なんともNHK寄りの判決なことか。

常識外れで疑問点だらけの最高裁判決や放送法

最高裁判決を概観した。見てきたとおり、どうもすっきりしない内容ということが分かる。我々の中にストンと落ちてこない。

反論1 NHKの役割は時代とともに変っている

判決の中で金科玉条のごとく繰り返されているのは「憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で,国民の知る権利を実質的に充足するため」という部分である。

NHKの役割がこのように重要性を帯びているということだ。この錦の御旗、水戸黄門の印籠であるが、まず、これが果たして妥当かということだ。

国民の知る権利の中身は何かということから考えなくてはならない。これは、一般市民(公衆)がその必要とする情報を,妨げられることなく自由に入手できる権利ということだ。

その権利を享受するためにはNHKがなくてはならないというものだ。何という奢った考えなのだろうか。NHKがないと国民の知る権利が妨げられるというのだ。

NHKの情報を入手しない権利は認められないのか。

今時、情報源は様々なものがある。ネットしかり、書籍しかり、テレビ、ラジオ、新聞しかりである。特に最近はその情報源ではネットの力は大きい。ツイッター、フェイスブックを始めとするSNS,ウェブサイト等々である。その中でNHKだけを特別扱いする理由が分からない。NHKも情報源の単なるひとつに過ぎないということを認識すべきだ。

「時代の変化があってもこの合理性に変りはない」と言うが、これだけ情報源が多様化しているのだから大きな時代の変化とともに、その合理性は揺らいでいると考えるのが筋だろう。

契約締結の自由という私法の大原則はゆるぎないものでなくてはならないのではないか。NHKの存在意義はその大原則を越えるものというのも奢った考え方だ。これも時代の変遷とともにNHKの役割は低下してきたと考えるべき筋合いのものではないか。

反論2  現在のNHK受信料徴収方法は妥当なものなのか

不偏不党であり、また、他からの干渉を避けて自立するための現在の受信料制度である。そのシステムとしてNHKを視聴しない者であってもNHKを受信できる機器を設置したものには受信契約を結ばなくてはならないということが合理的であると判断しているが、合理性を言うなら、NHKを視聴しない者とは契約をしないということの方が理に適っているのではないのか。

合理的と称したのは、NHKがうやむやのうちに収入を得る手法が「お前上手くやっているな~」という意味で合理的と言っているに過ぎないとしか聞こえない。

改めて考えると、受信する気もない者、受信していない者からもNHK受信料を徴収する手法は本当に上手くやっていると思う。

ドアに郵便受けがあるから新聞を勝手に配達しておいて代金を取る。「郵便受けは郵便を入れるもので新聞を入れるものではないので代金は払わない。」と言ったら「新聞も入る機能があるから払わなくてはならない。」、なんていうことがおかしいのは当たり前。

確かにNHKの受信料はNHKが他からの干渉を避けるためには受信機を設置した者から徴収するというのは分かるが、それならスクランブルをかけるとかして支払っていない者からは徴収しないとするべきだ。受信料収入の著しい減少となるかもしれないが、身の丈に合った運営をすれば良いだけの話だ。その程度しかNHKは求められていないということを身をもって知るべきだ。

時代は変っている。国民は肥大したNHK放送などは期待していない。NHK離れを起こしていることに気が付かないのだろうか。もう、NHKが放送法を盾にとってやりたい方第やる時代ではない。

反論3 NHKを不偏不党で自立する組織とする必要はあるか

「放送の不偏不党,真実及び自律を保障することによって,放送による表現の自由を確保すること」とある。どこからも干渉されるべきものではないということだ。

ところが、実際にはNHKは国の子会社のようになっていることをご存知だろうか。放送法では次のように国がその経営等に関与することとなっている。

 

・NHKの経営委員会委員は,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命している。

・NHKの財務及び会計については,内閣を経て国会に提出等されることとなっている。

・受信料の月額は,国会が,NHKの毎事業年度の収支予算を承認することによって定める。

・NHKは,受信契約の条項については,あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならない。

・総務大臣は,受信契約条項の認可について電波監理審議会に諮問しなければならない。

・NHKは,「日本放送協会放送受信規約を策定しあらかじめ総務大臣の認可を受けて,これを受信契約の条項として用いる。

見事なまでも、がんじがらめの国の関与ではないか。

特にNHKの「経営委員会」は何を決めるのかといえば、経営に関する基本方針等の重要な意思決定を行う機関である。言わば、NHKの根幹を成す組織である。これの委員の任命が内閣総理大臣であることには笑いしか出ない。

これで良く不偏不党で自立した組織と言えるものだ。そんな見掛け倒しのことをやらないで国営放送と言った方が説得力が出る。その意味でも受信料ではなくて税金で賄うべきだ。

反論4 国民の知る権利を充足するのは何もNHKに限ったことではない

放送は,憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で,国民の知る権利を実質的に充足するものと放送法では規定するが、この役割はNHKだけが担うものではない。国、民間、NHK、と全ての者がこの義務を負うのではないか。

その意味では判決では次のように良いことを言っている。

憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で,国民の知る権利を実質的に充足するために放送法は,公共放送事業者と民間放送事業者との2本立て体制として相互作用で放送により国民が十分福祉を享受することができるようにした。

国民の知る権利を実質的に充足するのは何もNHKに限ったことではなく、民間放送事業者もその役割を担うというわけだ。それなのにNHK に対してだけ特権を与えているという矛盾があるのだ。

ただ、残念ながら国はその役割を担う主体とはなっていない。これは正しいことなのか。国自身が情報発信機能を持たなくて良いものか。

恐らく、国の情報発信は例えば放送であれば公共放送事業者と民間放送事業者の両者を通じてなされるから国自身で行う必要性はないと答えるのだろう。

しかし、それでは国が意図しない状況で情報が伝達される可能性があるのではないか。民間放送事業者はスポンサーの意向に左右されるし、NHKは経営委員会の意向に左右されるからだ。

国が責任を持って情報発信を行うためには国営放送が必要だ。すなわち、そのためにもNHKは国営放送となるべきだ。

最後に

国の司法はその国の国民の大多数が賛同を得るような内容でなくてはならない。国民に迎合すれと言っているわけではない。きちんと国民が納得できるような内容でなくてはならないということだ。

残念ながら今回の判決で納得した国民はどれだけいるのだろうか。

国、最高裁が一丸となってNHKを擁護した形だ。

最高裁は恐らく、現状を是認した判決にしないと影響が大きすぎると思ったのではないかと推察する。もしも、これと異なる判決を出した場合、NHKの存亡にかかわるからだ。だから、合憲判決ありきだったと私は思っている。

声を大にして言いたい。勝手に放送を垂れ流ししておいて、テレビ、スマホやカーナビがあるからと言って受信契約締結を義務付けるなんて、スクランブル技術があるなか、どう考えてもおかしい。