生活保護を受ける母子家庭とシングルマザーの妊娠・出産に関する現状と課題:ひとり親家庭の生活保護制度における支援体制と父親の責任問題について考える

はじめに:生活保護と母子家庭を取り巻く環境

生活保護を受けている母子家庭やシングルマザーに限らない話であるが、生活保護制度を利用している若い女性の妊娠・出産について考えてみたい。この問題は、ひとり親家庭の生活保護受給世帯だけでなく、社会全体で考えるべき重要なテーマである。

若い男女が恋をするのは当然のことだ。人間として自然な感情であり、それ自体を否定することは誰にもできない。ただし、恋愛の結果として妊娠に至るケースもあれば、それ以外の状況での妊娠があるのも事実である。たとえ瞬間的な出会いであったとしても、そこに何らかの感情があれば、それも恋と言えるのかもしれない。

生活保護受給者の実態と統計について

生活保護を受けている人とそうでない人とを明確に分けて考える方法は、必ずしも正しいとは思わない。また、そのような視点での統計データも存在しない。生活保護受給の有無で人を区別することは、むしろ偏見を助長する可能性がある。

ここで述べることは、あくまで現場での経験に基づく感覚的なものでしかない。しかし、生活保護を受けているシングルマザーや母子家庭の中には、時間的な余裕があることや、一定の障害を持つ方が含まれることなどから、計画的ではない恋愛関係を持つケースが少なからず存在するように感じられる。

例えば、寂しさや孤独感から歓楽街に足を運び、金銭的に余裕のある男性との一時的な関係を持つケースや、経済的な理由から風俗業で働くことで男性との接点が生まれるケースなどが考えられる。ただし、これらの情報は当然ながら本人の口から直接聞くものではないため、推測の域を出ないということは明記しておかなければならない。

妊娠・出産の権利について

ここで強調しておきたいのは、妊娠・出産を否定しているわけでは全くないということだ。妊娠・出産は大変おめでたいことであり、一般論で言えば少子高齢化が進む日本社会にとって歓迎すべきことである。新しい命の誕生は、どのような状況であっても祝福されるべきものだ。

また、生活保護を受けている世帯だからといって、子供を産んではいけないという理屈は存在しない。夫婦で生活保護を受けているのであれば、子供が生まれることは十分にありうることだし、自然なことである。

それでは、夫婦でなければ妊娠・出産をしてはいけない、子供は嫡出子でなければならないと主張しているのかと言えば、そうでもない。生活保護を受けている母子家庭であっても、シングルマザーとして子供を産む自由は当然にある。これは憲法で保障された基本的人権の一つである。

もちろん、生活保護を受けているからといって恋愛やお付き合いをしてはいけないということは全くない。恋愛も交際も、そして結婚も、すべて個人の自由だ。その結果として妊娠・出産に至ることも、それは個人の選択であり自由だ。子供を産むかどうかを決める権利は、本人にあるべきものだ。

問題の本質:父親の不在と責任

それでは何を問題視しているのか。それは、子供が生まれる以上、必ず相手の男性が存在するはずなのに、その相手が全く見えてこないという点である。生活保護を受けるシングルマザーや母子家庭において、父親の存在が不明確なケースが非常に多いのだ。

妊娠を告げる女性たちは、相手の男性について、以下のような説明をすることが多い。

ケース1:一度だけの関係

「一度だけ会った人で、どこに住んでいるか分からない」「連絡先も知らない」というパターンである。このケースでは、相手の素性が全く不明であり、追跡することが事実上不可能となる。

ケース2:元交際相手

「以前付き合っていた人だが、もう別れたので今どこにいるか分からない」という説明である。このケースでも、現在の居所や連絡先が不明とされることが多い。

ケース3:既婚者との関係

「相手に妻がいて、相手に迷惑をかけたくない」というケースである。このように正直に話す人は、おそらく誠実な性格の方と思われるが、実際には極めて少数である。

ケース4:責任を取る約束

「相手は分かっているので、きちんと責任を取ってもらう」と当初は主張するケースもある。しかし、実際に出産が近づいてくると、次の面談時には「相手が行方不明になってしまった」となることがほとんどである。

実際のところ、圧倒的に多いのはケース1とケース2のパターンである。ケース4のように全面的に相手の存在を認めても、時間が経過すると相手は行方不明になってしまうのが現実だ。

行政の限界と調査の困難さ

このように説明されると、行政としても対応に苦慮することになる。父親の特定や養育費の請求など、本来であれば行うべき手続きがあるにもかかわらず、相手の情報が得られなければ何もできない。

せいぜい、どのようなシチュエーションで知り合ったのか、どのような関係だったのかを聞く程度しかできない。しかし、いかんせん、極めて個人的でデリケートな話になるため、真実を聞き出すことがほとんど不可能となる。

もしかすると、本人が言っている通り、本当に相手の居場所が分からないのかもしれない。あるいは、実際には今も夫婦のような付き合いを継続しているにもかかわらず、それを隠しているのかもしれない。真偽を確かめる手段がないのが現状だ。

結局のところ、相手の男性の存在や責任についてはうやむやとなってしまう。そして、妊娠・出産にかかる費用、生まれてくる子供の生活費も、すべて生活保護から支給されることになるのである。

推測される真実

真実が分からないので、これもまた推測の域を出ないが、現実的に考えてみたい。日常的に行きずりの男性と関係を持つ女性は、実際にはそれほど多くはないだろう。また、妊娠・出産が発覚したことで逃げる男性はいたとしても、完全に行方不明になってしまう者もそれほど多くはないと考えられる。

そう考えると、相手の男性が誰で、どこで何をしているかは、本人は分かり切っているケースが多いのではないかと推測される。もしかすると、現在も関係を継続しているかもしれない。しかし、今後結婚の可能性がない場合や、相手に経済力がなく全く甲斐性のない男性である場合、表面に出して何も良いことがないため、沈黙を守っているのではないだろうか。

ひとり親として生活保護を受ける場合、相手のことを正直に話せばケースワーカーから根掘り葉掘り聞かれることになる。それは精神的にも負担であり、面倒なことだ。しかも、男性に経済的な援助を頼まなくても、母子家庭として生活保護費が支給されるのであれば、相手のことを伝えることは百害あって一利なしと考えるのも無理はない。

生活保護を受けるシングルマザーがそう考えるのも、ある意味では生活の知恵であり、自分と子供を守るための正しい判断なのかもしれない。彼女たちが悪いわけではなく、そうせざるを得ない状況に置かれているとも言える。気持ちは良く分かるし、その選択を一方的に責めることはできない。

社会的コストの問題

しかし、ここで考えなければならないのは、妊娠・出産から子育てまでのすべての費用を税金で賄うことが、本当に適切なのかという点である。

父親が存在するにもかかわらず、その存在が明らかにされず、父親としての責任を一切果たさないまま、すべての費用が公的負担となる。これは、母子家庭の生活保護制度の趣旨から考えても、本来あるべき姿とは言えないのではないだろうか。

生活保護制度は、様々な事情で生活に困窮している人々を支援する重要なセーフティネットである。ひとり親の生活保護受給世帯も、当然その支援の対象である。しかし、本来責任を負うべき父親が責任を回避し続けることを、社会が黙認してよいのかという疑問が残る。

養育費の確保に向けた課題

現在、母子家庭やシングルマザーが生活保護を受ける際、養育費の受け取り状況も確認される。しかし、相手の男性の所在や連絡先が不明であれば、養育費の請求も不可能である。

本来であれば、DNA鑑定などの科学的手段を用いて父親を特定し、養育費の支払い義務を果たさせることも考えられる。しかし、現実には、相手の協力が得られなければDNA鑑定も実施できず、法的な手続きも進められない。

また、仮に父親が特定できたとしても、その男性に支払い能力がなければ、養育費を確保することはできない。結局のところ、生活保護を受けている母子家庭やシングルマザーの多くは、父親からの経済的支援を受けられないまま、公的扶助に頼らざるを得ないのが現状だ。

誤解を避けるために

ここまで書くと、まるで生活保護を受けている女性全員が無計画に妊娠・出産をしているかのように聞こえるかもしれないが、もちろんそんなことは全くない。

生活保護の不正受給率が0.5%程度であっても、メディアなどで大きく報道されることで、あたかも生活保護を受けている人たち全員が不正受給をしているかのような印象を持たれてしまうことがある。それと同じで、ごく一部の女性がそのような状況にあるだけで、全体がそう見えてしまうだけなのだ。

当然のことながら、生活保護を受けている母子家庭やシングルマザーの女性で、父親不明のまま妊娠・出産をする者は、全体のほんの僅かに過ぎないということを、念を押して明言しておく。大多数の生活保護受給者は、真面目に制度を利用し、自立に向けて努力している方々である。

まとめ:社会が考えるべきこと

数は少なくとも、そのような状況にある人がいて、そのような人の相手である男性が、ほぼ100%責任を取らないという現状を、社会として黙認してよいのかということを問題提起したい。

ひとり親として生活保護を受けざるを得ない母子家庭の背景には、様々な事情がある。それらの事情を一概に批判することはできない。しかし、子供が生まれる以上、必ず父親が存在するはずであり、その父親が適切に責任を果たすべきだという原則は、忘れてはならない。

生活保護制度は、本当に困っている人々を支援するための重要な制度である。その制度を守り、持続可能なものとするためにも、父親の責任追及の仕組みや、養育費確保のための支援体制を、より強化していく必要があるのではないだろうか。

これは、生活保護を受けているシングルマザーや母子家庭を責めるための議論ではない。むしろ、彼女たちが適切な支援を受けながら、子供を健全に育てられる環境を整えるために、社会全体で考えるべき課題なのである。