
ホームレスは生活保護を受けられるのだろうか。ホームレスであっても日本国民に違いないので、理屈上、受けられないはずはないと考えるのだがどうだろうか。
これについては、以前は受けられなかったことに間違いない。法律が変わったわけではないので、実務上の取扱いとして保護の対象としていなかったのだ。しかし、最近は現実的な取扱いとして受けられることとなっている。
本記事では、技術的にどのように保護をするか、以前はなぜ保護できなかったのか、そして現在のホームレスが生活保護を受けない理由について詳しく考えてみる。
今はホームレスでも生活保護の適用がある
もしも、ホームレスの保護を実施するとしたらどこが実施機関となるかというと、ホームレスがいるその場所を所管する実施機関となる。現在地保護である。ただ、いつも歩き回っていて居所が定まらないからホームレスとすると、その現在地は、本人が考える場所というのが正解だろう。つまりは、本人が行った福祉事務所が実施機関となる。
もちろん、ネットカフェ難民も同じ扱いとなる。
この辺りは推測だが、以前はホームレスを保護の対象としなかった理由は、「居所がないホームレスが申請した場所で保護を行うと、保護費をもらう都度、場所を変えて保護申請するということが可能となってしまう。福祉事務所を渡り歩いて、同時期に複数の福祉事務所から保護費をもらうということができてしまう。また、保護を実施したとしても、居所がないので実態調査ができない。生活保護の指導指示もできないので、生活保護を適用したくともしようがない」と考えていたものと思う。
最近は、こうしたホームレスは極力保護するように方向性が変わっている。もしも、ホームレスから申請が上がった場合は、それなりの支援を行う。ただ、この辺は自治体により温度差はあるだろう。
ホームレスが生活保護を受けるときの事務手続き
生活保護の申請があると、ケースワーカーは、先ずは、居宅生活を行うように助言する。そのためには敷金等の費用が発生するがそれらは保護決定したときに支払われる。一時的に不動産業者には待ってもらうこととなるが、不動産業者も商売なので生活保護の適用を前提に一時的に待つことは特には支障はないようだ。
ケースワーカーは不動産業者と連携を取り、アパートの重要事項説明書を確認したうえで保護費を支給することになる。
このようにホームレスが生活保護を受けることは、居宅を構えることが前提ではあるが、今は特には問題なく受給できている。以前もこの方法が取れたのではないかと言われると、法律が変わったわけではないので確かにそのとおりだが、以前は、生活保護を受けていない者に対しては、敷金等を支給できないと考えられていたことから、この取り扱いはできなかった。まさに鶏が先か卵が先かとなるが、実態調査等ができないため、被保護者となることができず、敷金等を支給できないという理屈になっていた。
このように居所を定めるように助言し、居所を定めた場合は生活保護の適用になるのは異論がないところだが、この助言に従わなくてはならないという義務はない。今いる場所で生活保護を受けたいとの主張も当然ありうる。
例えば、テント生活者のホームレスがテントを張っている場所で生活保護を受けたいというような場合であるが、テントを張っている場所が自分の所有地であるならいざ知らず、他人の土地を違法占拠している状況ではそこを居住地としての生活保護は認められない。生活保護を適用すると違法占拠を行政が認めることになるからだ。
居宅を構えずに、路上生活のままでの生活保護の適用はどうかとなると、まあ、これは依然として生活保護の適用とはならないだろう。実態調査が不可能だからだ。ある時点ではAという場所に居たとしても、次に実態調査しようにもその場所にはいないからだ。生活保護を適用したくとも適用のしようがない。
ホームレスが福祉事務所を渡り歩いて、同時期に複数の福祉事務所から保護費をもらうということは依然として考えられるが、これについては居宅で保護を行っている者についても同じであろう。あっちこっちに行きやすいかどうかだけの違いに過ぎない。
ホームレス 生活保護 受けない理由とは?適用が少ない背景
生活保護がこのように簡単に(以前と比べての意、適切な調査のもとというのは当然)ホームレスにも適用となっているが、まだまだ、生活保護を受けないホームレスが多い状況にある。なぜ、ホームレスは減らないのだろうか。
ホームレス本人の意思と価値観
先ずは、ホームレスがどう考えているかであるが、本当のホームレスが保護受給をどう考えているかは微妙である。これについては、あるサイトで異なる視点で言及しているが反論を交えて引用したい。
路上生活者に対しては、ある種の偏見があります。「怠け者」「自ら望んで通常の社会生活を拒否し路上生活をしている」といった社会的偏見です。新宿の段ボールハウスを強制撤去した青島元都知事は「あの方々は独特の人生観と哲学をおもちで・・・(段ボールハウスに)お住まいになっている」と発言しましたが、一時期はこういった偏見が横行していました。
これだけ生活保護が受けやすくなっている現在、果たして偏見なのだろうかと思う。誰の指示、干渉を受けずに生活したいと考えているということはありうるのではないだろうか。
事実、生活保護を適用したが居宅生活に馴染むことができずに、再び、ホームレスとなったという話も聞いたことがある。これは「ホームレス 生活保護 受けない理由」の一つとして、居宅での規則正しい生活や、ケースワーカーからの定期的な訪問調査、就労指導などの管理を受けることに抵抗感を持つケースがあるためだ。
誤った知識の流布と申請の諦め
では、なぜ路上生活をやめて生活保護を受けないのでしょうか?
答えは、生活保護行政が極めて抑制的な保護運用を行い、①路上生活者が生活保護を申請しても受け入れられない例が多発しているためです。また、②路上生活者の側にも「住民票がないと生活保護は無理」③「55歳以下の場合は、まだ就労可能だから生活保護は無理」といった誤った知識が流布され、保護申請を諦めてしまう現実があります。
②、③については、ここで言及されているとおりだ。生活保護はこうしたことは関係ない、つまりは日本人であれば住民票の有無は問わないし生活保護に年齢は関係ないということであって、これらの周知はホームレスには必要だろう。①については、以前はそうであったが今はそうではないということは先述のとおり。
心理的なハードルと社会的要因
ホームレス 生活保護 受けない理由として、他にも以下のような心理的・社会的要因が考えられる。
プライドや羞恥心
生活保護を受けることに対する恥ずかしさや、「人に迷惑をかけたくない」という気持ちから申請を躊躇するケースがある。特に、かつては定職に就いていた人ほど、この傾向が強いとされる。
手続きの複雑さへの不安
福祉事務所での手続きが複雑であると感じたり、必要書類を揃えることが困難に思えたりして、申請前から諦めてしまうことがある。
過去の申請拒否の経験
以前に申請して拒否された経験がある人は、再度申請することに強い抵抗感を持つことが多い。
情報不足
そもそも生活保護の制度について詳しく知らない、どこに相談すればよいかわからないといった情報不足も、申請に至らない大きな要因となっている。
ホームレスになる人の特徴と背景
ここで、ホームレスになる人の特徴についても触れておきたい。ホームレスになる経緯は多様であり、単純に「怠け者」というような一面的な見方では捉えられない複雑な背景がある。
経済的困窮からの転落
最も多いのは、失業や倒産、病気などによる経済的困窮である。特にリーマンショックやコロナ禍のような経済危機時には、突然仕事を失い、家賃が払えなくなって路上生活に陥るケースが増加する。貯蓄が少ない状態で失業すると、あっという間に住居を失う可能性がある。
人間関係の断絶
家族や友人との関係が希薄、あるいは断絶している人は、困窮時に頼る相手がおらず、ホームレスになりやすい傾向がある。離婚、家族の死亡、虐待などにより家族との絆が切れている場合も多い。
精神的・身体的健康問題
うつ病や統合失調症などの精神疾患、アルコールや薬物依存症を抱えている人も少なくない。これらの問題が就労や社会生活を困難にし、結果としてホームレス状態に至ることがある。また、持病や障害により働けない状況も、ホームレスになる要因となる。
社会的スキルの不足
対人関係の構築が苦手、就労経験が乏しい、社会制度の利用方法がわからないなど、社会的スキルが不足している人もホームレスになりやすい。特に施設で育った人や、長期間引きこもっていた人などは、自立した生活を送るためのスキルを身につける機会が限られていることがある。
こうした「ホームレスになる人の特徴」を理解することは、予防策や支援策を考える上で重要である。単なる自己責任論では解決できない構造的な問題が背景にあることを認識する必要がある。
若い女性のホームレス問題
近年、特に注目されているのが若い女性のホームレス問題である。従来、ホームレスといえば中高年男性のイメージが強かったが、実は若い女性も目に見えない形でホームレス状態にある場合が多い。
見えにくい女性のホームレス
若い女性の場合、路上で寝泊まりするのではなく、ネットカフェ、ファストフード店、友人宅を転々とするなど、「目に見えないホームレス」として存在していることが多い。また、安全面への不安から、危険な状況に身を置くことを避けるため、不安定な関係性の中で居場所を確保せざるを得ない場合もある。
女性特有の困難
若い女性がホームレス状態に陥る背景には、家庭内暴力(DV)や虐待からの逃避、性暴力被害、妊娠・出産に伴う困窮などがある。また、女性の場合は男性よりも平均賃金が低く、非正規雇用の割合も高いため、経済的に不安定になりやすい。
福祉事務所に相談に行くことすら、過去のトラウマや恐怖心から躊躇してしまうケースもあり、支援につながりにくい現状がある。女性専用の相談窓口や一時保護施設の整備など、女性に配慮した支援体制の強化が求められている。
まとめ:ホームレスと生活保護の現状
生活保護の門戸はホームレスにも当然開かれている。個々人の考えもあるが、不正を行う趣旨でなく、真に自身が居宅生活を送りたいならホームレスは迷わずに福祉事務所に相談するべきだ。
ホームレス 生活保護の関係について、重要なポイントをまとめると以下のとおりである。
制度面での改善
現在は、ホームレス状態の人でも生活保護を申請し、居宅を確保したうえで受給することが可能になっている。敷金などの初期費用も保護費から支給される仕組みが整っている。
受けない理由の多様性
しかし、実際には多くのホームレスが生活保護を受けない理由として、誤った知識、心理的ハードル、過去の拒否経験、居宅生活への不適応などさまざまな要因がある。
正しい情報の周知が必要
住民票がなくても、年齢に関係なく、日本国民であれば生活保護を申請できるという正しい情報を、ホームレス当事者に届けることが重要である。
多様な背景への理解
ホームレスになる人の特徴や背景は多様であり、単純な自己責任論では解決できない。経済的困窮、人間関係の断絶、健康問題など、複合的な要因が絡み合っている。
困窮している人が必要な支援を受けられる社会を実現するために、制度の周知と、偏見のない理解の促進が求められている。もし身近にホームレス状態で困っている人がいれば、福祉事務所への相談を勧めることも、一つの支援の形となるだろう。