生活保護(生保)は怠け者を作り出すシステムなのだろうか

「別項で生活保護を受ける権利があるので、困っている人は受けましょう」と言ったのですが、「生活保護は怠け者を作り出すシステムか」と言われるとちょっと辛いですね。

答えは、YESでありNOであるということでしょうか。

意味が分かりませんね。確かにそのような人もいるということです。

怠惰かどうかというのは、働けるのに働かない、もしくは、働いていても雀の涙程度で良しとしている場合かと思います。そういう意味では、もともと稼動年齢層ではない高齢者の方々は、怠惰かどうかという話にはならないでしょう。

「働けるのに働かない、たくさん働けるのに制限して働く」、こうしたことは生活保護では認められません。ですから、このような人たちに対しては、稼働指導を行うことになります。

そのうえで、指導指示に従わない場合は、生活保護は停止または廃止となります。

理屈上は以上のとおりですので、怠惰な状況は許されるものではないのです。</span >

■ところが物事はそんなに簡単ではない

働けるのに働かないとする前提として、働けることの認定が必要となります。当人が働けるかどうかです。この認定のハードルが結構高いのです。

「そんなの簡単じゃないか。病気をしていない人は働けるだろうし、仮に病気をしていても病院の先生が働けるというなら働けるのではないか」と言った意見もあると思います。

そのとおりです。しかし、そう簡単に行かないのも事実です。

生活保護手帳を見てみましょう。
稼動能力を活用しているかどうかを判断するために、その基準として①稼動能力があるのかどうか、②その具体的な稼動能力を前提として、その能力を活用する意思があるか否か、③実際に稼動能力を活用する就労の場を得ることができるか否かにより判断することが求められています。(局第4-1)

①で、そもそもその人に稼動能力があるのかどうかの判定が求められます。まず、持病がある人の場合を見てみます。病院の先生に「この人は働けますか」と聞くのですが、通院している以上、無条件に「働ける」と言う先生は殆どいません。必ず、軽稼働とか短時間、事務的仕事などと条件を付けてきます。

いくら、労働市場が売り手市場であるとしても、「通院しています。病院の先生は軽稼働稼動ならできると言ってます。」と言ってウエルカムで雇用する事業者はいるでしょうか。また、病状以外にも資格、生活歴・職歴等を把握・分析してそれらを客観的かつ総合的に勘案して評価しなくてはならないとしていますので、健康体であっても稼動能力がないと判断することもあり得る前提となっています。

②は本人の働く意思があるかどうかですが、これは、①、③が完備しているなら、②で意志がないと判断された場合は停廃止が前提となりますので、特には問題とはなりません。

重要なのは、③です。実際に就労の場を得ることができるかどうかが稼動能力活用の判定の前提となっているのです。簡単に言うと、現実に働く場がないような人はいくら①で稼動能力があると言っても、稼動能力の活用を求めることができないのです。</span >
必要な場合はケース検討会議などを経て、組織的に判断することになりますが、例えば、協調性のない人で現実的に同僚と上手くやっていけない人、アルバイト的な就労経験しかない人、全うな仕事をしたことがない人は、そもそも稼働指導を受けない可能性も出てくるのです。

これらをクリアして、稼動指導が行われたとしても、職安に通って求職状況の報告をすると実際に働いていなくともOKとなります。「自分は生活保護など受けたくない。だから、正社員で応募している。自分は頑張っている。」と言って現実には雇われる可能性など全くない会社に応募を続けるという場合もあります。

この指針が出たのが平成21年頃だったと思います。それ以前はどうだったかというと、「兎も角病院の先生が働けると言ったんだから働け」とか、「やる気になれば仕事なんて何でもあるだろう」といった指導が多く、保護の停廃止が結構あったものですが、現在は、今見たように相当程度受給者側に沿った考えとなっています。

まとめ

このように他人から見て十分に働けるように見えたとしても、生活保護の実施上、働かないでも良い人はたくさんいるということになります。傍から見ると、怠けているように見えるでしょう。</span >

生活保護を受けていない人は働かないと生活できません。当然どんなことがあっても働こうとします。より良い条件を求めて死ぬ気で仕事を探します。でも、ひとたび生活保護を受けると、仕事がなくて収入がなくなっても、生活費は保障されます。それどころか、働いても、その分が差引かれるだけですので、働き損になります。本来、働き損になるという考え方自体がおかしいのですが、人はそう考えてしまうものです。働かない方が得という考えになってしまうのです。でも、それって、人の根源的な考えであって、一生懸命に働くという考え方の方が働いても収入が増えないのなら難しい考えとも言えるかも知れません。そうした考えを前提に実施要領が組まれているのではないかと推測します。

そこを乗り越えて、一生懸命に働くのは相当の努力が求められます。本来そうあるべきものなのですが。なかなかそこまで求めることは困難なことです。

そういう意味では怠け者を作るシステムかもしれませんが、それは結果的にそういった部分もあるということで、システム自体が悪いわけではありません。交通事故があるから車はダメということにはならないものです。