夫婦

手持ち金が0円でも預金があったとか、財産があったから生活保護に該当しなかったというオチではない。そんな単純な話ではない。手持ち金が0円、預金も0円、資産も一切なしで生活保護を申請しても却下にしかならないということがありうる不思議な話のことである。

生活保護はその者の1か月の生活費と収入を対比させて収入が少ない場合は生活保護に該当するというもので、これを要否判定と呼んでいる。

ここで1か月の生活費以上の手持ち金を有しているのであれば生活保護を申請しても当然却下にしかならないというのは明らか。何の不思議もない。

ところがここで申請のときは確かに手持ち金は0円なのだが、申請するその日に預金を下ろして支払いに充ててしまった場合はどうだろうか。

仮にAさんという人がいて、例えば、Aさんの生活保護基準が12万円、申請日に20万円の預金を有していて、その20万円を借金払いで支払って手持ち金が0円の状態で申請するという場合である。

「そもそも、その日に20万円を有していて困窮しているというのがおかしい、その20万円は借金払いに充てるのではなく、今後の生活費に充てないとならないものだ。だから却下は当然」という考えは誤っている。

保護請求権無差別平等の原理というものがある。これは生活保護法第2条「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を無差別平等に受けることができる。」から導き出される原理である。

性別、社会的身分はもとより、生活困窮に陥った原因の如何は問わず、生活に困窮しているかどうかという経済状態に着目して保護が行われる。というものである。

この例では、Aさんの直接的な困窮原因は20万円を借金払いに充てたことである。その結果、手持ち金が0円となって生活に困窮したものだ。この原理に照らすと、こうした場合でも生活保護に該当させなくてはならないことになる。

ところが、冒頭のとおり、Aさんはこのまま申請したとしても却下にしかならないという不思議な話になるのである。

それはなぜか。それは、Aさんは20万円を有しているからである。「そんなことはない、前提としてAさんは借金を保護申請前に払っているので手持ち金は0円ではないのか」と思うだろうが、生活保護の不思議な取り扱いとしか言いようがないが、手持ち金は0円ではなく、20万円と見るのである。つまり、預金残高は午前0時を基準とするのである。実際に申請時に預金がなかったとしても、午前0時に残高があるならその金額が預金額となるのである。

だから、Aさんは却下にしかならないということだ。この辺は、おそらく、誰しもが疑問に思うだろうが、そうするようになっている。どこで決めてるかというと各実施機関だ。だから異なる方法で決めてるところもあるが殆どがこうなっている。

なぜそうなのか。例えば銀行預金通帳を申請日以外に提出したとしよう。そこで申請日にお金を下ろしていたら、方や手持ち金認定、方や不問と言った取り扱いがばらばらではおかしいことになる。だが保護申請に時間の概念がないので、いきおい取り扱いを決めてしまわなくてはならない。保護費も当日から計算することを考えると午前0時とするのが合理的という結論となるのだ。

現実にはAさんには翌日申請するように話をすることになるだろうが、もしもAさんがそのまま申請したとすると、却下となり、その後、再度申請するまでの間の時間が無駄になってしまうことになる。却下決定するまでにも相応の時間がかかるからだ。

要は、生活保護を申請する日に、下ろした預金を使ってすぐに申請しても「下ろしたお金は使われていない」と見られるということだ。もしも申請しようとする日に下ろしてしまったら、申請を翌日にすべきということだ。

なお、この話は、下ろした金額が大きい場合、すなわち1か月以上の生活費の場合に言えることで、それ以内なら問題はない。