これじゃ老々介護が出てくるのも無理はない。老健(介護老人施設)、特養(特別養護老人ホーム)入所費用の話

鳴り物入りで平成12年(2000年)4月1日から施行された介護保険。既に定着されているとはいえ、いまだ老々介護の話などが枚挙に暇がない。介護疲れで相手を殺してしまったという話も聞く。介護保険はその役割を十分果たしているとは思うが、なぜ、悲惨な事件が後を絶たないのだろうか。

私は、そのひとつに老健、特養の費用の問題があると考えている。確かに、民間に比べると公費負担があるだけいくらかは低廉となっているのだろうが、果たして現実的に入所できる金額なのだろうか。

いやいや、うちの親は少ない年金で左うちわで暮らしているという人もいるかも知れないが、費用が両極端ということを含めて、ここでは言及したい。

夫婦がいて片一方が認知症などになりこれらの施設に入らなくてはならない場合に(一般的にはこうした人たちの方が多いと思う)は請求金額を見て驚くことになる。

一方、遺族年金をもらっている方は、ゆとりを持って費用を賄うことができる可能性が高くなる。

いずれにしても、費用が天と地との差になるのだ。自身の場合で計算してみて愕然とした。

老健、特養に入所すると費用はいくらかかるのか

こうした施設に入所した場合にかかる費用は大きく分けて施設介護サービス費、居宅費、食事代である。居宅費は多床室とユニット型に分かれるが、自分は他人と四六時中一緒にいるのは耐えられないから選択肢はユニット型しかない。
こちらのホームページを見てわかるとおり、かかる費用は137,847円ほどである。
https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/hoken/tokuyo/cost/

高齢者夫婦の平均年金は世帯で22万円ほどである。収入がこれしかないとすると、一方が老健や特養に入った場合、片一方に残されるお金は僅か8万円ほどにしかならないことになる。これをどう見るのだろうか。

実際に私の年金で計算してみても、残るお金は殆ど変わらなかった。要は夫婦二人世帯の片一方がこうした施設に入所したら、残された者は極貧生活となるということだ。

これじゃ、どう考えても施設入所などはしない、老々介護が当たり前になってしまうのではないか。

ひとり者には優しいかも

一般的な夫婦世帯ならこうなるが、それでは一人世帯ならどうなのだろうか。厚生年金に加入している男性の平均年金額は16.5万円ほどとのことである。独り身という前提なので、この年金で生活する他の者はいないので、自身だけを考えると年金収入だけで十分施設入所は可能となる。

加えて、遺族年金の対象者はもっと優遇される。(遺族年金の対象者は女性と限らないが、平均寿命を考えると遺族年金をもらう者は女性の方が多いと思われる)何とこの遺族年金は非課税なのだ。非課税だとどうなるかというと収入としてカウントされないので施設費用が減額されるのだ。

私の住んでいる街では第1段階から第5段階まで掛け金のランクがあるが、一定の資産がない限り、いくら年金額が多くとも自動的に第3段階となる。この第3段階になると1日の居住費が1,970円から1,310円に下がり、食事代も1,380円から650円に下がるのだ。そして高額介護療養費が、こちらは第2段階となり一般の人が44,400円のところ15,000円まで下がる。その結果、施設利用用はおよそ74,000円となり一般の人の半額近くで入所できることになる。これだと、女性の平均年金受給額の100,326円があれば十分生活が可能となる。

生活保護を受けることはできるか

先ほどの二人世帯を例に取ると、残された者の可処分所得は8万円ほどになる。住宅費を含めて、この8万円では生活保護を受けることができるのではないかという議論が出てくる。結論としては受けることはできないだろう。なぜなら、世帯としての収入は22万円あるからだ。

先ほど、施設入所に必要な費用は14万円弱と述べたが、これは最大限高い状態(一般世帯)のことであり、生活保護で必要経費として見るのは残念ながらこの最高に高い額ではない。先ず、居住として原則、ユニット型は認められない。多床室しか認められず、多床室は生活保護基準から行けば費用はかからない。加えて、食事代も1日300円、高額介護療養費も15,000円なので、24,000円あれば入所できる計算となるのだ。

いやいや、現実、14万円かかっていると主張するかもしれない。ここで、行政の出番となると言えば聞こえが良いのか、行政の逃げと考えるかは分からないが、実は、普通の基準では保護が必要だが、生活保護基準で計算すると保護が必要ないという場合は、生活保護の申請を受けて却下を受けることにより、かかる費用を生活保護基準に下げるという方法もある。これを境界層該当と言う。

なので、本当に困っているなら、役所に相談に行くというのも方法かも知れない。

まとめ

以上、見て来たとおり、公的資金が投入されているとは言え、夫婦二人で片一方が要介護状態になったときの施設入所費用は決して安いものではない。残された者が8万円ほどの極貧生活を余儀なくされるのだ。

いきおい、離婚という話も聞く。離婚して単身者になると入所した者に収入がないなら非課税世帯となり負担額が安くなるからだ。離婚して、負担額を安くして、費用は夫(前夫?)が払うという構図だ。偽装離婚となるので、決してしてはいけないことなのだろうが。

うちは年金収入で十分生活ができていると考える人も、施設に入所するとこうなるということを忘れないでおかなくてはならない。

介護保険で確かに介護難民が減ったのは間違いないが、介護保険といえども万能ではない。ない袖は振れないのだ。

介護保険があるからと言って、十分な介護を受けれるとは思わない方が良いということだ。