国会答弁で見る新型コロナウイルスが疑われるときの通院方法、公共交通機関の利用は可能か

新型コロナウイルスが疑われるときは公共交通機関を利用してはいけないと政府はアナウンスしている。ならば、どうやって通院するのか。家族がいれば家族に送ってもらえるが単身者ならどうするのか。車を持っていない者はどうするのか。 こうした疑問は誰もが思うことだろう。国会でも以下のとおり質疑が行われていた。

国会答弁による通院方法

 令和二年二月二十八日初鹿明博議員提出 質問第九一号

新型コロナウイルスの検査に公共交通機関を利用しないで行くことに関する質問主意書

各都道府県の帰国者・接触者相談センターのホームページに「相談の結果、新型コロナウイルス感染の疑いのある場合には、専門の「帰国者・接触者外来」をご紹介しています。マスクを着用し、公共交通機関の利用を避けて受診してください。」との記載がされています。
公共交通機関を避けるというのは、感染拡大を防止する為に感染者が移動する間に出来る限り他の人との接触を少なくしたいという意図からだと推察しますが、新型コロナウイルスの検査が出来る帰国者・接触者外来は全国でも約七百ヶ所程度しかなく、公共交通機関を利用せずには行けない感染者がいる事は容易に想像が出来ます。
自家用車で連れて行ける家族がいれば自家用車で行くことが可能ですが、家族がいる方ばかりではありません。だからといって、三十七・五度を超える発熱をしている人に自家用車を運転して行かせることも危険だと感じます。
一体どうやって検査を受けに行かせようとしているのか疑問に思います。
以上を踏まえて、政府の所見を伺います。

一 相談の結果、感染の疑いがある方が検査に行くに当たって公共交通機関の利用を避けるよう指示をしているのは政府なのでしょうか。
二 ここで示している公共交通機関にタクシーは当然含まれていると考えますがその通りでしょうか。
三 上述のように自家用車で連れて行ってくれる家族がなく、歩いて行ける範囲に検査機関が無い方はどうやって検査を受けに行けば良いと考えているのでしょうか。救急車で検査に行くことは認められるのでしょうか。
四 そもそも検査機関の数が少な過ぎることがこのような懸念を引き起こしているのだと考えます。感染の疑いがある方が歩いて検査に行けるようにどこの医療機関でも検査が出来るようにする必要があると考えますがいかがでしょうか。

右質問する。

質問は特に難しい内容ではない。その質問に対する回答が読み込みが難しいことに驚く。

衆議院議員初鹿明博君提出新型コロナウイルスの検査に公共交通機関を利用しないで行くことに関する質問に対する答弁書

一及び三について
御指摘の「指示」の意味するところが必ずしも明らかではないが、厚生労働省が作成した「新型コロナウイルスを防ぐには」(以下「リーフレット」という。)において、「帰国者・接触者外来」について、「マスクを着用し、公共交通機関の利用を避けて受診してください」とされているところ、この記載については、「公共交通機関」を利用する他の利用者への感染を予防するために必要な行動を求めるものであるが、「公共交通機関」を利用する場合であっても、新型コロナウイルス感染症のまん延の防止のため、マスクの着用を始めとして、できる限りの対応をとっていただく必要があると考えている。
また、救急車の利用については、検査のみを目的とする利用は想定していないが、その必要性が状況により異なるものであり、一概にお答えすることは困難である。

二について
御指摘のタクシーについては、御指摘の「公共交通機関」に含まれる。

四について
御指摘の「医療機関でも検査が出来る」の意味するところが必ずしも明らかではないが、リーフレットにおいて「センターでご相談の結果、新型コロナウイルス感染の疑いのある場合には、専門の「帰国者・接触者外来」をご紹介」することとされているところ、「帰国者・接触者外来」については、全国で八百箇所以上設置されており、保健所等と連携して、必要な検査を行っている。引き続き、新型コロナウイルス感染症に対応した医療提供体制の整備に努めてまいりたい。

我々が一番気になることは質問の3番目である。  これの答えになると思われる部分は 

「新型コロナウイルスを防ぐには」(以下「リーフレット」という。)において、「帰国者・接触者外来」について、「マスクを着用し、公共交通機関の利用を避けて受診してください」とされているところ、この記載については、「公共交通機関」を利用する他の利用者への感染を予防するために必要な行動を求めるものであるが、「公共交通機関」を利用する場合であっても、新型コロナウイルス感染症のまん延の防止のため、マスクの着用を始めとして、できる限りの対応をとっていただく必要があると考えている。

 要約すると次の通りとなる。

1「マスクを着用し、公共交通機関の利用を避けて受診してください」と記載したのは、他の「公共交通機関」利用者への感染を防ぐため。
2「公共交通機関」を利用する場合であっても、新型コロナウイルス感染症のまん延の防止のため、マスクの着用を始めとして、できる限りの対応をとらなくてはならない。

政府の意図

どうやって通院するかの質問に対して、これはないだろう。こんなんなら何も回答していないのではないのかと思うのは早計だ。実は、ここでは公共交通機関の利用を認めていることに気が付いただろうか。

実はリーフレットでは「マスクを着用し、公共交通機関の利用を避けて受診してください。」と言っているだけで「公共交通機関を利用する場合であっても」などとは一切言及していない。そりゃそうだろう。前提として公共交通機関を利用するなと言っているのに「公共交通機関を利用する場合は」などと言うはずがない。しかし、答弁では唐突に「公共交通機関を利用する場合」が出てきた。

 実は、この手法は行政では良く使われている。前提を仮定的に作っておいて、これに対して強い態度を取ることで前提を肯定するという手法だ。この場合は「例え公共交通機関を利用するとしても最大限の感染予防対策を取るように」と言っている。

 さらっと流せば「最大限の感染予防対策を取るように」が強調されるので厳しいことを言っていると捉えられがちだが、実は、ここで言いたいことは「公共交通機関を利用する場合もありうる」ということなのだ。

 次に救急車の利用も場合によってはありうるということを認めているのは明らか。答弁では一見、重篤の場合のみ利用できるように思われるかも知れないが、そうではない。検査でも場合によっては利用できるとはっきり読み取れる。

 「検査のみを目的とする利用は想定していないが、その必要性が状況により異なるものであり、一概にお答えすることは困難である。」この文面は「必要性があれば想定外ではあるものの検査でも利用できる」ということなのだ。

 政府の苦しい立場は良く分かる。大っぴらに「公共交通機関を利用して良い」ということにしてしまえば、同じ交通機関を利用している者に対して感染させてしまう。かと言って100%公共交通機関を利用してはダメと言ってしまうと現実的に通院できなくなってしまう者も出てきてしまう。

 どっちも上手くない。要は、適時判断して最良の方法を取らなくてはならないということを言いたいはずだ。 

なので、一見、現状を是認(公共交通機関の利用はできない)したかのような言いまわしであっても、精読すると逆の内容であることを表現しているのだ。

 そうした見解であるなら、そう言えば良いのではないかと思われるかも知れない。「時と場合によっては公共交通機関や救急車を使うことができる」と。

 しかし、もしもそう言ってしまうと、政府の意図しない方向に解釈されてしまったり、言葉尻を捉えて攻撃材料にされてしまう可能性がある。だから、こうした回りくどい言い方をしているものと思う。

 現実の通院はどうすれば良いのか

先日テレビでやっていたが、コロナ疑いでPCR検査のためにタクシーで病院に行ったときに病院側から公共交通機関で来たらダメと怒られたと言うもの。このため、帰りは高熱の中、1時間かけで歩いて帰ったという。

 事実がどうかは分からないがこうしたことも政府広報を額面通りに受け取ると起こりかねない。このようなこと(無理して歩いて通院すること)は良くない。それでは現実的に我々はどうすれば良いのか。

 私は、以上のとおり、政府は時と場合によって通院手段は適宜選択して構わないと解釈しているので次のように考える。

1 自分で運転して行ける状況なら自分で運転する。
2 自分で運転できないなら(車がない場合も含む)、家族や友人、知人の中で送迎をしてくれる者を探す。
3 誰も送迎してくれる者がいない場合は公共交通機関を利用する。このときは当然感染させないためにマスクの着用、他人との距離を取ることは絶対に行う。
4 タクシーを使う場合は、手袋を着用し支払いは消毒したキャッシュカードとするなどの方法を行う。 

なお、症状が逼迫しているときは、救急車を使わなくてはならないことは言うまでもない。