最高裁が認めたNHK受信料を支払わない方法

NHK受信料にお墨付を与えたと言われている平成29年の最高裁判決だが果たしてそうだろうか。

この裁判は、NHK受信料を支払わない輩がいたのでNHKが告訴したというもの。なのでNHKは原告、支払わなかった者は被告である。

一見、被告が全面敗訴したかのように見えるが、判決で明示した内容はこれだけではない。

見ようによっては、NHK受信料を支払わないで済むことを示唆しているとも取れる内容がある。

小難しい話は別にして次をみてほしい。

NHKNHK

放送法は契約を義務付けているので、NHKからの受信契約の申込みが到達した時点で契約が成立しているのだから、受信料を支払わなくてはならない。

裁判官裁判官

放送法は契約を義務付けているけど、受信設備設置者への一方的な申込みによって契約が成立するなんてどこにも書いてないよ。

裁判官裁判官

契約締結しない者に対しては裁判に訴えて解決を図るべきだ。民法ではそうなっているだろ。

NHKNHK

そんなのいちいち面倒くさいよ。

裁判官裁判官

面倒くさがっちゃダメ。契約ってのはきちんと説明して納得してもらって結ぶものでしょ。あんたは、今までだってちゃんとそうやってきただろ。放送法に契約を結ばせる方法なんて書いてないんだから、契約を嫌がっている者に対してもきちんと説明して合意を得なくてはならないものなんだよ。

NHKと契約していない者は支払義務が生じないという事実

なかなか面白いとは思わないだろうか。

NHKの言うことも分からないではない。放送法で契約を義務付けているのだから、一足飛びで請求したくなる気持ちは分かる。

でも、放送法にはその契約を実現する方法が書かれていないのだ。書かれていないからこそ、「普通こうしたもめごとは裁判沙汰だよね。」と最高裁が言ったわけだ。

つまり、最高裁は任意に契約をしない者に対しては裁判沙汰にして判決の確定を得なくては徴収できないと言ったのだ。

放送法で契約を義務付けているからと言って契約をしていない者からは受信料を徴収できないということなのだ。これが重要だ。

これは何を意味するか。そう、契約さえしていなければ支払う必要がない。つまりは正々堂々と支払いを拒否できるということだ。

最高裁が認めたNHK受信料を支払わない方法はNHKと受信料契約をしないということなのだ。

もちろん最高裁が支払わないことを推奨しているわけではないが、私には最高裁のお墨付きに思えてならない。

NHKからの訴訟は提起されるか

NHKと契約を締結しない場合はNHKから訴訟を起こされるのではないかと思うかもしれない。
でも、常識的に考えて滞納している900万世帯を全て提訴するなんてあり得ない。見せしめ的に僅かなだけ提訴するのが関の山だ。

最近の訴訟の状況を見てみよう。
昨年7月に報告されたものだが、 支払督促申立て総件数は9,982件(平成18年11月~30年6月)、放送受信契約の未契約者に対する提訴の状況は345件、たったこれだけである。

支払督促申立ては契約を行っている者に対する訴え(正確には意義を申し立てて訴訟に移行する。)であり、契約をしていない者に対する訴えは345件に過ぎない。

受信設備を設置しているかどうかの挙証責任はNHK側に求められることを考えると契約をしていない者に対してNHKはうかつに訴訟などできやしない。だから345件と極端に少ない件数となっている。

それでは、この345件はなぜ訴えられたのか。内実はNHKや被告しか分かりようがないが、自ら受信設備があると認めた者は当然訴訟の対象となりうる。例えば、BS視聴申込を案内に従い通知した者などだ。

このように、NHKは受信設備を設置しているかどうかは分からないので、NHK受信料を支払いたくないなら受信契約をしないという選択肢となる

今更ながら最高裁判決の面白いところ

正面から最高裁判決のおかしなところは次に書いたが、判決には、おかしいというよりも面白いと思う事柄がある。

それは、最高裁のこうした判決は法理論上当然に導き出されたものであろうが、最後に「話し合いで契約してもらいなさい。」と言っている点だ。

話し合いで解決しないからこうして裁判沙汰になっているんだろうに。話し合いで解決できるなら裁判所なんていらないのではないか。

最高裁は、話し合いで解決できないほど、システム設計が今となってはおかしいということにもっと気が付くべきだ。

さらに、別論点の時の話ではあるが最高裁は、「通常は,受信設備設置者が原告に対し受信設備を設置した旨を通知しない限り,原告が受信設備設置者の存在を速やかに把握することは困難であると考えられ」と言っている。

「速やかに把握するのは困難」と言っているだけだが、把握は時間をかければできるというものでもない。

つまり、最高裁も、受信設備の把握はNHK側ではできないと考えているということだ。論点は別の事柄での言及なので、これ以上議論は深まらないが、私は最高裁がこう言及したのは、一瞬でもNHK受信料の不公平さを感じたからではないかと思っている。

NHKの受信料徴収方法は矛盾だらけ

こう書いてきたが、私は、受信設備を設置していてNHKと契約をしていない世帯は不公平と思う立場なのでNHKは全件訴訟をすべきと思っている。

受信設備を設置していてNHKと契約をしていない世帯に対して良い悪いということではない。良い悪いと言ってしまえば、制度やシステムのあり方を抜きにして契約をしない者にのみ責任を押し付けるような形になってしまうからだ。

ただ、間違いなく言えるのは「不公平」ということである。

しかし、今見てきたとおり、現状では「受信設備などは設置していない」と言ってしまえばそれで契約をしないで済む。でも、これは本当におかしいことである。実際に設置していないならば仕方ないが、設置していても「設置していない」と言えばまかり通る。この部分だけ見てもNHKの徴収方法はおかしいといわざるを得ない。

詳しくはこちらに書いた。

参考(最高裁判決の抜粋)

最高裁判決の抜粋は次のとおり。じっくり見て考えてほしい。

イ そして,放送法64条1項が,受信設備設置者は原告と「その放送の受信についての契約をしなければならない」と規定していることからすると,放送法は,受信料の支払義務を,受信設備を設置することのみによって発生させたり,原告から受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく,受信契約の締結,すなわち原告と受信設備設置者との間の合意によって発生させることとしたものであることは明らかといえる。これは,旧法下において放送の受信設備を設置した者が社団法人日本放送協会との間で聴取契約を締結して聴取料を支払っていたこととの連続性を企図したものとうかがわれるところ,前記のとおり,旧法
下において実質的に聴取契約の締結を強制するものであった受信設備設置の許可制度が廃止されることから,受信設備設置者に対し,原告との受信契約の締結を強制するための規定として放送法64条1項が設けられたものと解される。同法自体に受信契約の締結の強制を実現する具体的な手続は規定されていないが,民法上,法律行為を目的とする債務については裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる旨が規定されており(同法414条2項ただし書),放送法制定当時の民事訴訟法上,債務者に意思表示をすべきことを命ずる判決の確定をもって当該意思表示をしたものとみなす旨が規定されていたのであるから(同法736条。民事執行法174条1項本文と同旨),放送法64条1項の受信契約の締結の強制は,上記の民法及び民事訴訟法の各規定により実現されるものとして規定されたと解するのが相当である。

この点に関し,原告は,受信設備を設置しながら受信契約の締結に応じない者に対して原告が承諾の意思表示を命ずる判決を得なければ受信料を徴収することができないとすることは,迂遠な手続を強いるものであるとして,原告から受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で,あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で,受信契約が成立する旨を主張する(主位的請求に係る主張)。

しかし,放送法による二本立て体制の下での公共放送を担う原告の財政的基盤を安定的に確保するためには,基本的には,原告が,受信設備設置者に対し,同法に定められた原告の目的,業務内容等を説明するなどして,受信契約の締結に理解が得られるように努め,これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましい。そして,現に,前記のとおり,同法施行後長期間にわたり,原告は,受信設備設置者から受信契約締結の承諾を得て受信料を収受してきたところ,それらの受信契約が双方の意思表示の合致により成立したものであることは明らかである。同法は,任意に受信契約を締結しない者について契約を成立させる方法につき特別な規定を設けていないのであるから,任意に受信契約を締結しない者との間においても,受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要というべきである。